
Arts Initiative Tokyo [AIT]
日本✕オランダの協働アートプロジェクト

REPORT 2024
About CAT 2024
こころと身体、
五感で楽しむアート体験
そして豊かな学び合いへ
2024年は、これまでの美術鑑賞と創作のプログラム「インスピレーション・ツアー」(→ 1|Inspiration Tour)を、より多様な方が参加できる仕組みを取り入れ、アクセシビリティをひろげる形で開催。
子どもや大人、見えない人や聴こえにくい人を含む、さまざまなバックグラウンドの方がアートを通じて自分の感じかたを伝え、互いに学び合う機会をつくりだしました。
AITはこれからも、ともに体験する驚きや発見をつうじて、メンタルヘルスとアートとともに、アートを活用した新たな学びと表現を考えていきます。
自分の表現をさらにひろげる、美術鑑賞と創作のプログラム
Inspiration Tour
Art appreciation and creation program to expand our own expression

Part 1. Appreciation
鑑賞
作品をみて、聴いて
異なる感性に気づき
分かち合う
「インスピレーション・ツアー」は、多様な参加者とともに美術館に出かけ、驚きと対話を通じてさまざまな芸術表現に出会い、インスピレーションを得て、自身の新たな表現を生み出していくきっかけをつくるプログラム。お互いの感性から発見し、驚きや、時に、これまでの考え方を疑ったり批評する実験的な学びの時間になっています。オランダの取り組みをヒントに、2022年から継続的に実施しています。
2024年は新たな試みとして「アトリエ・エー」のメンバーに加えて一般からも参加者を募集。普段、美術館にアクセスしにくいと考えている人やさまざまな特性のある人がお互いにサポートしながら、アーティゾン美術館の企画展「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×毛利悠子 ー ピュシスについて」とコレクション展を鑑賞しました。
ファシリテーターと参加者がグループになり、作品を鑑賞したり音を聴きながら、発見や喜びを言葉にしたり、時に感情の揺さぶりを感じながらこころの変化を観察しました。
Photo by Isamu Sakamoto
Reflection
考察
自然と周囲にケアの空気が広がる
アートと心のインスピレーション・プログラム
2025年1月25日。コレクティヴ・アメイズメンツ・トゥループ [CAT]の取り組みのひとつ、インスピレーション・ツアーが実施された。今年度は、「新たな鑑賞の楽しみ方を見つける、アートと心のインスピレーション・プログラム」と題し、ダウン症や自閉症の子どもを中心に表現活動を行う市民グループ「アトリエ・エー」のメンバー、目の見えない方、そして一般から募った、耳の聞こえにくい方や精神障害のある方らを含む下は5歳から上は70代まで年齢も幅広く多様な参加者とともに美術館にでかけた。
展示室内では少人数のグループに分かれ、ファシリテーターやサポートしてくれた人々とともに、自由に鑑賞。その後ロビーでみんなで感想を伝え合った…
上條 桂子
Keiko Kamijo
アートライター
フリーランス編集者。雑誌や書籍の編集執筆を行う。アトリエ・エーには、スタッフとして2013年頃より活動に参加 している。
Part 2. Creation
創作
鑑賞体験から創作へ
気づきや自由な感じ方から
新たな表現を探る
美術館を訪れた2週間後、鑑賞に参加したアトリエ・エーのメンバーはいつものアトリエに集まり、創作ワークショップがひらかれました。「インスピレーション・ツアー」の小さな仕掛けとして、普段のアトリエの画材に加えて、大きな画用紙やアクリル絵の具など、いろいろな新しい画材を用意しています。好きなものを選んで、自分だけの表現を形にしていきました。
創作では、美術館での経験がすぐに分かりやすい形で現れてくるわけではありません。美術館でみた作品や会話、気持ちを思い出して描いても、いつものように自由な絵を描いても、絵の具や紙など画材や素材にとことん向き合ってもよい自由な時間であることを大切にしています。そして、多様な特性を持つ表現者たちの観ること・つくることの活動を拡げます。
Photo by Isamu Sakamoto
Reflection
考察
上條 桂子
Keiko Kamijo
アートライター
フリーランス編集者。雑誌や書籍の編集執筆を行う。アトリエ・エーには、スタッフとして2013年頃より活動に参加している。
General Review
by AIT
全体を振り返って
「複数の時間」に気づく
美術鑑賞プログラム
文・堀内奈穂子(AITキュレーター)
CATの鑑賞プログラムでは、これまでは、普段アトリエ・エーに通うダウン症や自閉症の若者、大人のファシリテーター、そして子どもたちが混ざり合って美術館を訪問し、作品を味わい、そこから生まれる想像力や心の変化を発信してきた。今回は初めて一般公募を行い、障害の有無を問わず、アート鑑賞に関心がある人なら誰でも応募できるかたちで参加者を募った。そして、これまでと同様に、多様な人々が集まり、少人数でじっくりと作品を観察する試みであることを大切にした。 近年、アートの現場で「ケア」や「アクセシビリティ」は重要なキーワードになっている。代表例としてよく知られているのが、ニューヨーク近代美術館(MoMA)が2006年から実施している、アルツハイマー病や認知症の当事者とその介護者を対象にした対話型プログラム「Meet Me at MoMA」(*1) だ。現在では、世界各地の多くの美術館がケアを意識したプログラムを展開している。 また、ケアを鑑賞者だけではなくスタッフや環境にも広げて考えるユニークな実践のひとつには、パリの現代美術センター「パレ・ド・トーキョー」の「Institutional Permaculture(制度的パーマカルチャー)」(*2)がある。館長ギヨーム・デザンジュによるこの提案は、農業におけるパーマカルチャーの原則を文化機関に応用し、持続可能で柔軟な美術館運営を目指すものだ。そこでは環境への配慮とともに、精神的・認知的な多様性を尊重する空間づくりのほか、過去に実現できなかった企画を再検討することで、スタッフの知を循環させる取り組みが行われている。 CATもまた、そうした潮流に学びつつ、独自の方法で多様な人々と共につくる芸術体験、さらには私たちの身の回りの環境への気づきを含めた、総合的な芸術体験のあり方を探りたいと考えている。 # 多様な参加者と「余白」を残したアクセシビリティ 今回集まったのは、子どもや若者、高齢の方、障害のある方、企業のボランティアなど43名ほど。多様な参加者が集まった。プログラムの準備にあたっては、「NPO法人エイブル・アート・ジャパン」や、過去にもAITのプログラムでご協力いただいた東京都盲人福祉協会副会長でアーティストとも協働する川村和利氏、キュレーター・社会福祉士として活動する田中みゆき氏など、多方面の専門家からアドバイスやレクチャーをいただきながら進めて行った。さらに、協働を続けている「アトリエ・エー」からは、これまで鑑賞プログラムに参加してきたダウン症や自閉症のメンバーが、新しい参加者の鑑賞に伴走し、自身の経験を活かしながら共に場をつくる役割も担った。 ここでは「整えすぎないこと」を意識し、参加者自身が自然に相互サポートを模索し合うような「余白のあるアクセシビリティ」を目指した。こうした多様な関わりが重なり合い、プログラムの時間は有機的に展開し、思いもよらない発見に満ちたものになった。 #ひとつの作品から重なる感覚の層 個別のエピソードについては、本ウェブサイトの鑑賞レポートや「アトリエ・エー」の赤荻徹氏のコラムに詳しいが、私が関わったグループには、視覚に障害のある川村さん、子ども、持病で鑑賞から離れていた女性、そして企業のボランティアのメンバーが共に作品を鑑賞した。 そこでは、絵画や映像、音や動きのある毛利悠子さんのインスタレーションを前に、メンバーが作品の色や形を言葉にして川村さんに説明し、視点を重ね合わせて作品を想像する姿があった。あるとき、海の波が描かれた絵画を前にメンバーが説明していると、川村さんが誰よりも早く、奥の展示室の映像作品からかすかに聞こえる波の音に気づき、それを絵画に描かれている波のイメージと結びつけて感想を伝えてくださった。その瞬間、全員が驚き、耳を澄ませた。 視覚、聴覚、触覚、そしてそれぞれの参加者の記憶や経験の断片が重なり合い、作品の全体像が浮かび上がる印象深い時間となった。CATのプログラムが生み出すのは、まさにこうした「複数の感覚が交差する時間」だといえる。 # 芸術から考えるオルタナティブなケア フェミニズム理論、科学技術研究、ケアの倫理の研究者であるマリア・プイグ゠デ゠ラ゠ベラカーサ(Maria Puig de la Bellacasa)は、著書『Matters of Care: Speculative Ethics in More Than Human Worlds』(*3)で、「土壌の時間(Soil Times)」という概念を通して、人間だけでなく多様な存在が持つ「複数の時間」に気づくことの重要性を説いている。 彼女は、パーマカルチャー理論にも深く触れており、「土のための時間をつくる実践を「ケアの時間(care time)」として読み解く」こと、そして人間以外の「複数の時間」に気づくことがケアの概念を揺さぶり続ける上で重要であると述べている。 CATの鑑賞プログラムもまた、他者の時間やリズムに意識を傾ける瞬間を生み出しているといえる。芸術を観察することは、目には見えない生物の営みや自然の壮大な時間のスケールを想像する場になると共に、作品を共に観る他者の体の動き、視点、息づかいといった「人」の観察にもつながる。こうした体験を広げてみると、医療や福祉の領域にも通じることができる。近年、海外の医科大学では、医師や医療従事者を目指す学生に芸術の鑑賞や制作を取り入れる試みが行われている。抽象的な芸術を観察し、考えることは、人の感情や症状を深く理解する学びになるだけではなく、自分自身を内省的に見つめ、時にケアする場にもなり得るからだ。 CATの活動も、制度的な枠組みを超えて「オルタナティブなケアのあり方」を模索する実験だといえる。芸術の体験を通してゆっくりと広がる時間を共有することは、効率や経済性に追われる現代の流れに抗う行為ともなり、私たちがどのように世界と関わり、生きるのかを考える手がかりになるのではないだろうか。 *1: Meet Me at MoMA — New York Museum of Modern Art の対話型鑑賞プログラム。アルツハイマー病や認知症を持つ方とその介護者を対象とし、アート鑑賞を通じてアクセシビリティとケアを探る実践。詳細は MoMA のページ(リンク)を参照。 *2: Institutional Permaculture — パレ・ド・トーキョーによる制度的パーマカルチャーの試み。文化機関運営にパーマカルチャーの原則を応用し、多様性と持続可能性を重視した実践。内容の紹介はパレ・ド・トーキョーのサイト(リンク)をご覧ください。 *3:Maria Puig de la Bellacasa, Matters of Care: Speculative Ethics in More Than Human Worlds. Minneapolis: University of Minnesota Press, 2017. (参照可能なPDF: https://syllabus.pirate.care/library/Maria%20Puig%20de%20La%20Bellacasa/Matters%20of%20Care%20(171)/Matters%20of%20Care%20-%20Maria%20Puig%20de%20La%20Bellacasa.pdf) 本書の中で彼女は以下のように述べている。引用文の日本語訳は筆者による。 「土の時間を発見する時間を作ることが、「ケアの時間」を育む一形態として読むことができる。第一に、土のサイクルを繰り返し観察する行為が、ケアを可能にする。ケアの作業は、繰り返し(観察を)行うことでより良くなり、より強い関わりと知識によって関係性を育む。そのためには、「他者」の時間的リズムと、織り成される関係に注意を払い、微調整する必要がある。」
新たな鑑賞の楽しみ方を見つける、アートと心のインスピレーション・プログラム
インスピレーション・ツアー(鑑賞+創作プログラム)
Inspiration Tour, January 25 / February 9, 2025
主催:NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]
企画:ディア ミー(by AIT)
協力:アトリエ・エー、NPO法人エイブル・アート・ジャパン(みんなでミュージアム)
寄付:資生堂カメリアファンド
企画:藤井 理花、堀内 奈穂子、和田 真文(AIT ディア ミー)
ファシリテーター :赤荻 徹、赤荻 洋子、大隈 理恵、豊嶋 さおり、肥田 暁子、藤原 伊織
サポーター:秋山 名子、岸部 二三代、衣川 恵、清水 広美、楊 勝帆(株式会社資生堂)
アクセシビリティ アドバイザー/ヒアリング:鹿島 萌子、川村 和利、田中 みゆき、平澤 咲
写真:阪本 勇
CAT 2024 website
制作:NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]
イベントレポート:赤荻 徹、上條 桂子、藤井 理花
ウェブ制作:木下 悠
SPECIAL THANKS
内海 潤也、岸部 二三代、毛利 悠子、Yutaka Kikutake Gallery、ご参加いただいたみなさん
本事業の鑑賞サポートは「東京文化戦略2030」の取組「クリエイティブ・ウェルビーイング・トーキョー」の一環で
アーツカウンシル東京が助成しています。

atelier A





















































